料理長クワさんの「食材を訪ねて」〜魚沼野菜編 大沢畑に行ってきました!
「むらんごっつぉ」のテーブルには、毎日、魚沼のおいしいものがのぼる。できるだけ地元のものを一番おいしい時に、プロの腕で味わい豊かに、が身上だ。当然、食材選びも真剣である。今の季節においしい食材はなんだろう、だれがどこでどんなふうに作っているのか、安心できるのか、などなど、実際に目で見て試食して、「これなら」というモノたちだけを使っている。今日は、メニューになくてはならない食材、野菜を大沢の畑に訪ねた。季節は11月、冬の訪れとともに寒さの中で、うまみをぎゅっと蓄えた秋冬野菜が目当てだ。出かけたのは「味に妥協はしないぜ」の調理長クワこと桑名である。
つくっていたのは御年70歳、笑顔のかわいい太田さんだった
畑のある大沢は、湯沢のお隣、南魚沼市の塩沢地区にあり、魚沼の中で最もおいしい魚沼産コシヒカリを産出することで有名な一等地だ。その栄養豊かな土壌と豊かな水は、米ばかりでなく、甘くみずみずしい野菜も育んでいる。「むらんごっつぉ」の野菜の仕入れ先のひとつも、ここ大沢にある。つくっているのは何代にもわたって農業を営んできた笑顔のかわいい太田幸(おおたさち)さん。かわいいと言っては失礼か、太田さんは幼い頃から畑を手伝っているこの道60年以上の大ベテランなのだ。
想像以上の広さ、品種の多さ。軽く「趣味」と言われて唖然
夏ならオクラにスナックエンドウ、インゲン、モロヘイヤ。魚沼野菜として有名なカグラナンバンもある。秋になればカキノモト(食用菊)にムカゴ。今の季節なら、カブにキャベツにダイコン。野沢菜もある。これだけの多品種、それに太田さんはそれなりにご高齢、隠居されて趣味でのんびり畑をやってるんだろうと訪ねたのだが、バッサリ、裏切られました。見渡せばあたりはみな畑。「けっこう広いぜ」。太田さんに聞けば「ずっと向こうの方までうちの畑」と言うじゃないか。ざっと見て大根にキャベツに白菜、10数種類の秋冬野菜がずら〜り、わさわさと育っている。「本格的なんですね」。思わず正直な感想を伝えると「まだまだ。これくらいは趣味の範囲だよ」と太田さん。確かに太田さんは、野菜を出荷しているわけではない。だから、手広くやっているとは言えないけれど、その分、ひとつひとつに手間ひまを掛けることができる。なにせ、太田さんの野菜、完全無農薬なのだ。
毎日、朝も晩もプチプチつぶしてまわる。完全無農薬の野菜づくり
「何もしてねえ」と太田さんは言う。それは完全無農薬であることを意味している。特別なことをしない、農薬を使わない。するとどうなるかと言えば、虫が出る。すごくたくさん出る。「出てくるのは決まって朝晩。それを狙って冬以外は毎日、朝と晩に虫をつぶして回る。手でプチプチとね」。手ですよ、手。「好きだから続けられる。虫取りも楽しい。だから趣味」。でも、私、桑名は知っています。見ればわかります。この黒々としてやわらかい土。何十年も手をかけているからこそ、この土になるんだと。同じように栽培にも骨身を惜しまないからこそこんな立派に生長するのだと。キャベツは太田さんの肩幅くらいまで大きく育ち、カブも握りこぶし2つ分。うまそうだ、そう思いながらキャベツを見ていたら我慢ならなくなった。「食わしてください」。太田さんに断りを入れ、その場で泥の付いた皮をむいてがぶり。「うまい」、思わず声が出た。しかもあま〜〜い。シャキッとした歯ごたえで大きさからは想像が出来ないほどやわらかい。さてカブはどうだ? これまたあま〜〜い。まるでフルーツ、柿のように甘い。みずみずしくて食感も柿のようだ。「昔、スキー場の食堂で料理つくってたとき、生のままサラダにして出したことがあるんだよ。そしたら東京のお客さんが驚いてね。『これは何ですか?』って」。うむ、わかります。どれもこれも、これぞとうなずく絶品だった。
「畑は生き甲斐」という太田さん。とことんおいしく仕上げるぜ
「太田さんにとって畑は?」とうかがうと、「私の生きがいだよ」と笑顔で答えてくれた。生長する野菜を見るのが毎日の楽しみで、その野菜をおいしいと食べてくれることが何よりもうれしいそうだ。そもそも井仙とは35年も前からのお付き合い。当時、越後湯沢駅周辺で野菜を売り歩いていた太田さんが井仙を訪ね、そのとき現会長が対応、ナスを仕入れたのがきっかけだ。今はもう売り歩くことはしていないが、井仙にだけは変わらず、季節の野菜をはじめナスの漬物などを持って来てくれる。夏場なら週に2回、軽トラックに野菜をいっぱい積んでやってくる太田さん。おかげで私たちは朝採りの新鮮野菜をその都度、使うことができるのだ。
「ありがとうございました」。畑を見て、太田さんの笑顔に会って、おいしそうに丸々している野菜を見て、気持ちが高まった。「おいしく仕上げてやるぜ」。早速「むらんごっつぉ」へ帰り、とれたて野菜を前にメニューを考えた。特にカブには驚かされた。この美味しさ、みずみずしさをどのように表現するかはオレ、桑名の腕の見せどころ。まず考えたのが「カブのスープ」。カブを湯がいて皮ごとペースト状にし、鶏ガラスープに混ぜて濃厚に仕上げる。鶏そぼろとじゃがいもを白玉粉で丸めた具を浮かべて完成。もう1つが「カブの茶碗蒸し」。くりぬいたカブを茹でて味付けして器とした。とき卵を入れて味付けしただし汁を入れ、蒸したら、魚沼産の舞茸を置き、やはり太田さんのカキノモトを添えて。いずれも、カブ本来の甘みと香りを生かした一品に仕上がった。季節には夕食のコースに加えたいと思う。
ほかにも太田さんの畑の野沢菜を漬けたりしているから、朝食で出会える野菜メニューもまだまだある。こんなふうに地元でとれた安心な旬の野菜をふんだんに取り入れている魚沼キュイジーヌ料理、「むらんごっつぉ」でぜひお召し上がりください。