安孫子の酒蔵探訪 〜白瀧酒造編 湯沢唯一の酒蔵で、今日もメガネが光った

食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋に紅葉の秋。四季のクッキリしている日本ならではの表現ですが…、そうです。「日本酒の秋」です!! ”ひやおろし”や”秋あがり”といった言葉があったり仕込米が入荷し始めるのもこの季節で、酒造りにとって秋は重要。稲刈りもほぼ終わりを迎え朝晩の肌寒さが増してきた10月某日、その答えを探すべく、いてもたってもいられなくなった呑んべぇが一人、同じ湯沢にあり町内唯一の酒蔵「白瀧酒造」さんにお邪魔しました。ご存知、”アビ”こと安孫子。今日はどんなところでメガネが光るのだろうか、乞うご期待。

鉄筋コンクリートの大工場に「イメージが違うゾ」

 越後湯沢駅構内を通り、井仙のある西口から東口へ。ロータリーから少し歩いたところに「白瀧酒造」はあります。道路に面した建物には昭和の初期から伝わるというレトロな看板が掲げられていますが、どでかい鉄筋コンクリートのそれは工場さながら。
「お、俺の酒造りのイメージと違うな」
 酒蔵のイメージと聞かれ、何十年も使用している木樽や桶、漆喰の壁などが頭に浮かぶのは俺だけではないはず。ともあれ3階にあるオフィスへ案内していただき、営業の小川さんより、見学の行程や商品などの説明を簡単に受けました。地元ということもあり、ほとんどの商品は把握していたつもりでしたが、この蔵元、毎月、テーマに沿った12銘柄のお酒を出しているとのこと。お恥ずかしながら知りませんでした…。夏といえばビール!という人は多いと思いますが、「こんなに暑い日はキンキンに冷やした日本酒だよね!」という人も少ないはず。この月ごとのお酒はそんな日本酒ライフの幅を広げる大きなヒントがありそうですな。ところで今回は杜氏の山口真吾さんが直々に案内していただけるとのこと。忙しいところ本当に恐縮ですがしっかり見させていただきます!!

まず近代的な平成蔵へ潜入。洗米後の酒米を見て触って

 白衣&長靴を装着し、オフィスのある建物から外へ。こちらの蔵元には”昭和蔵”と”平成蔵”があり、大吟醸クラスは昭和蔵、それ以外のお酒は平成蔵で造られているのだそうです。平成蔵の入り口にて靴の消毒と手洗いをした後、いざ潜入!
 まず目に飛び込んできたのは入荷したての酒米たち。1tも入っているであろう大きな袋にはそれぞれ「五百万石50%」などの札が付いています。多くの蔵元では酒米の精白は外部の業者に委託しているそうで、つまりこの袋の中には精白済みかつ、今まさに仕込に使用される酒米が入っているのです。中を見たくてウズウズしている俺の気配を察知したのでしょうか、おもむろに杜氏は袋を開け始め、そして「どうぞ手にとって見てください」と一言。あ、ありがとうございます! ちゃんと手洗いしておいてよかった〜。精白された酒米は白さが増し、楕円からまん丸へと形も変わっていて、酒米を見たことがない人達にはこれがお米であるとは気付かないのでは?
 横に目をやると早速、洗米の作業に取り掛かっている蔵人さんを発見。吟醸で4割以上、大吟醸で5割以上(こちらの蔵元では6割以上!)も削られた酒米はもろく、割れないように気を付けながら洗米するわけですが、あまりノンビリしている暇はありません。というのも酒米は、みなさんが食べている飯米とは違って硬めに蒸さなくてはならないので、吸水させる時間が短いのです。しかもそれは酒米の種類・精白度合い・気温や湿度、さらには目標とするお酒の味など様々な条件によって異なるとのこと。その都度違うので、やはり杜氏の経験と勘で判断を下さねばならず、なおかつそれによって蒸し時間にも関係してくるというのだから恐れ入ります。蔵人の経験・知識や感覚というのは本当にスゴいですね。
 続いて洗米されたものを水に浸けているタンク?の上に案内され、その工程を見学しているとまたもや杜氏、おもむろに水を切った酒米に手を伸ばし「こんなふうに目玉がなくなる手前まで吸水させます」と触らせてくれます。この”目玉”とは米の中の白色の濃い部分(芯白)のことで、それが水を吸い半透明になりきる前の状態まで水に浸けておくのだそうです。そうすることで蒸した時に”外硬内軟(がいこうないなん)”の酒造りに最適な蒸し米になるのですが、そのためには吸水を加減しなければならず、水温を一定に保ったり秒単位で吸水時間を管理する必要があるのだとか。「へぇ〜〜」。序盤から感心させられっぱなしで蒸しの工程を見学しに次の部屋へ。

外硬内軟の蒸し米、マシーンに少年の心を取り戻したオレ安孫子

 すると、見慣れない機械が横たわっています。ベルトコンベアのようなものが付いているこの機械で、どうやら酒米を蒸すようです。「酒米はこのパイプを通ってこの機械の中に取り込まれます。くっついてムラが出来ないように、そして外硬内軟に仕上げます」と杜氏。外硬内軟とはよい蒸し米の状態を指す酒造の専門用語。表面はべたつかず、握った時には弾力があって芯の感じられない状態のこと。そんなさばきがよくてふくらみのある蒸し米を眺めつつ、今度はさらに階上の麹室へ。といってもこの平成蔵ではマシーンが麹菌をふりかけます。杜氏が何かのスイッチを入れたもよう。「ガチャン!ウィーーーン!!」。おおお!蒸し器の蓋が上がっていきます。動きは単純ですが、こういう場所で見ると感動的。中には蒸し米の白い絨毯。薄くそして均一にならされています。それにしても見たこともないような機械ばかりでワクワク! 俺、少年の心を取り戻しました。この調子で次の作業場へレッツゴー!!

お次は醗酵中のタンクへ。特別にきき酒させてもらいました

 次に訪れたこのフロア、一見殺風景ですが床には丸い金属製の蓋らしきものが点在しています。杜氏がライトで照らして下さったので、そぅっと覗いてみると…WOW! お酒が醗酵中ではありませんか。そうです、ここは醸造タンクの上なのです。そこからはなにやらいい香りが。思わず顔を近づけようとすると杜氏が一言。「あ、危ないですよ」。え!?何がですか?? 杜氏の説明によれば、タンク内は二酸化炭素が充満し酸素の濃度が薄いため、万が一落ちようものなら酸欠で死に至るとのこと。こちらでは実際に酸素濃度を測定する機械もあり、タンクの口にゆっくりと近づけると…、口下10cmのところでけたたましい警報が鳴りました! 数値を見れば、室内の14分の1程度しか酸素がありません。いやーそうでした、忘れてました。お酒が出来る過程で、酵母は糖分をアルコールと二酸化炭素に変えるんでした。以前どこかの蔵見学のときに、ちらっと酸欠の話を聞いたのを思い出しました。よくよく辺りを見回せば、まるで体育館のように床ぎりぎりの低い位置に換気窓があり、うまく二酸化炭素を排出する仕組みが見て取れます。う〜ん、またもや酒造りのスゴさを実感しましたね。命懸けです!!  蔵人のスゴさを再確認したところで、今度は味のスゴさを再確認することに。今日は特別に「きき酒」させていただけるとのこと。そんなあ、いいんですか〜。顔がほころぶ俺、アビこと安孫子。杜氏がタンクから直にすくって下さったそれは、白く濁り、酒米がドロドロに溶けた状態。濃ゆい「にごり酒」を想像していただければおおよそ近いと言えます。こちらの蔵元の特徴でもある華やかで芳(かんば)しい香り! 口に含めば甘みがあり幸せな気分にさせてくれます。同行していたカメラマンの分もすくっていただいたのですが、車の運転があるからとか何とか強引に説き伏せて、俺が代わりに「きき酒」しました。杜氏、ありがとうございました!!

セレブな麹米たち。栗のような甘味が完成のあかし

 すっかりイイ気分になってしまいましたが取材はまだ終わっていません! 後ろ髪をひかれる思いで泣く泣く醸造タンクをあとにした一行。次の作業場は麹米を育てるところで、こちらも大きな機械があります。前の作業場で見た、蒸した酒米に麹菌をふりかけたものをこちらで寝かせるわけです。青木酒造さんを見学した際にあった「ハクヨー」と同様の働きをするものですが、なんせ造る量が遥かに多いこちらの蔵元。機械も遥かにデカイ! 適度な温度と湿度に管理された鉄の箱の中には、文字通り「温室でぬくぬく育った」麹米たちがいます。このVIP待遇なセレブ米達がこだわりのお酒になるんですね〜。ここでも実際に酒米を取り出して見せていただきました。杜氏が重そうな鉄の扉を開けると、先ほどのタンクのお酒とはまた違った良い香り。枯れ葉?芝生?と蒸米の香りが混ざった感じでしょうか。秋の香りとも言えそう。そして味見をさせていただくと、ほのかな甘みがあり鼻に抜ける香りはいつも食べているコシヒカリとは少し違うようです。「栗のような甘みになったら麹米の完成です」と杜氏。あぁ、なるほど。あの甘みは栗だったんですね!

麹米や酵母が元気に、喜ぶようにと働く蔵人たち。彼らの横顔に、HATAGO井仙の姿勢を重ねて

 度々貴重な初体験をさせていただいた一行は、平成蔵での見学の締め、酒母造りの工程へ。「酒母(しゅぼ)」とは麹米と蒸米、水と酵母とを混ぜたもので、ここにきてようやくアルコール分が生み出されてお酒らしくなってきます。小ぶりなタンクを使い、酵母が元気にお酒を造ってくれるように下準備をします。ウォーミングアップといったところでしょうか。いきなり大きなタンクに大量の蒸米と水、そして麹米に酵母を混ぜ合わせても活発に発酵はしません。うまい具合にお酒にならないのです。そこで、この酒母に蒸米と水を何回かに分けて増やしていきます。それこそが先ほど呑み助がいた部屋の大きなタンクとなるわけです。
 ここでもまた酵母の活動がしやすい環境を作るために働く蔵人達。麹米や酵母が元気になるように、喜ぶようにと体を動かしています(もちろん最終的には呑み手が喜ぶように)。そして私達HATAGO井仙の仕事はと振り返れば、お客様というヒトを相手に喜ばせる仕事。全く異なる業種ですが、基本は相手が喜ぶことをする、誰かのためになる、ということですね。そのために考え、調査し、ときには体に鞭(むち)を打ち東奔西走(とうほんせいそう)し、そして真心を込める。そうすればきっとお酒の神様やお客様は微笑んでくれるのでしょう。  今回の蔵元見学で特に感じたのはその点でした。酒造りも機械化が進んだことで蔵人の肉体的労働量は少なくなり、安全で高品質な、より酒造りのしやすい環境となっているのは確かだと思います。しかしながらその一方で生まれる時間的・肉体的余裕は、常によりよいお酒を造ること、呑み手の満足や「sake life」の充実のために費やされているんだなぁ、と深く感心いたしました。うん、俺もより一層お客様に喜んでもらえるように日々精進するよう気を引き締める所存にございます! さぁ、また今晩からお酒の勉強(試飲??)しなきゃな。

隅々まで見せていただいた白瀧酒造さんに感謝。さあ、本日の復習と街へ出かけますか

 さて本日はまだ昭和蔵での造りが始まっていないとのことで、造りが始まる前の蔵を簡単に回って見学は終了。日常生活には縁のない道具たちが静かに出番を待っており、これから始まるであろう嵐のような日々を思って、’エア’酒造りしてみました。どうです?写真の俺、結構ハマっていると思うんですが…。どの道具もシンプルかつ絶妙。大きさや形、特に微妙な角度や手に馴染むような作りになっており、体が自然と動いてしまいました。
 今回の蔵元見学「白瀧編」も、たくさん感じてたくさん驚き、酒文化と地元の素晴らしさを実感できました。造りの始まる忙しい時期にもかかわらず取材を許可していただいた上に、親切・丁寧に協力して下さった白瀧酒造の皆さんに感謝! お蔭様で貴重な初体験や美味しい思いをすることができました。どうもありがとうございました!! 同じこの湯沢の地で商いをするもの同士、さらに良いものを提供して世界中に満足を届けたいものですね。
 ではそろそろ、本日の復習をしに夜の街へと繰り出しますか。

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