安孫子の旅籠酒リポート〜酒蔵探訪編 その時メガネが光った!

われらが旅籠酒。それは、HATAGO井仙のお客様のためだけに醸される特別な一品だ。今日は、この酒を造ってくれている青木酒造を訪れた。湯沢のお隣、南魚沼市(旧塩沢町)の雁木通りの一画。さて、旅籠酒はいかにして造られているのか—。新潟生まれ日本酒育ち、呑みそうなヤツはだいたい友達、を自負する俺”アビ”こと安孫子。果たしてこのメガネで旅籠酒造りの秘密を見つけることができるだろうか??

「温度計は意味がない」と頭は言った。カンと経験が物を言う「蒸米」の時間

 よく口にしていても、その製造現場を見学させていただくのは初めてとなる青木酒造。
蔵元の青木貴史社長と頭の今井隆博さん案内のもと、店先から長靴に履き替え奥の酒蔵へと足を踏み入れようとすれば、漂って来ました。酒の、麹のイイ香り!! 一気にテンションが上がります。
 まずは1階の蒸米の釜のあったあたりで「蒸す」について、しばしおうかがい。酒造りの第一歩となる蒸し米、その仕上がりを左右しているのは、このデジタル時代にあって蔵人たちの勘とはまず驚きです。「温度計で測ることもできますが、タンクに入れた米の外側と内側では微妙に温度が違う。外気温によっても違う。だから感覚で覚えろ、と言っています」とは今井さん。あちらこちら触って総合的に人が判断する。簡単そうに言うけど、わかるようになるまでに何年かかるのだろうか。酒造りは受け継がれてきた技あってこそ、とは聞くが、この温度勘もそのひとつなのだろう。

味のモトがココで決まる。いざ、「麹」の部屋へ

 次は2階にのぼって麹室へ。酒造り中はほかの菌を持ち込まないように、蔵人たちは納豆を食べるのも差し控えるという。それほどに繊細さが必要とされる場所だが、シーズンオフということもあって、中へと入れていただきました。
 酒の出来を大きく左右する麹の扱いには、この蔵ならではの工夫や苦労が感じられます。麹室の入り口には大きな金属製の箱「ハクヨー」が鎮座していますが、これは、麹を育てる最新型の機械。温度や湿度などの管理ができ、麹蓋の積み替えをすることなく均一に安定した麹米を作れるのだそうです。しかしながら、酒造技術全般において進歩した昨今でも、機械の使用法や温度・湿度管理はその蔵ごと、蒸米ごと(!)の微調整が必要であり、その最終的な決定・判断は熟練した職人の感覚や勘に頼っておられるとのこと。実際、近年では温暖化の影響からか、酒米自体の水分量が少なくなったり硬くなったりしているそうで、精米から蒸米、麹の乾燥・寝かせの工程、さらには仕込樽での米の溶け方にすら影響があるそうです。ウマイ酒が呑めなくなるなんて嫌ですね…。ストップ!温暖化!!
 さて、仕込期間には蔵人達の宿舎となる部屋の前を通過し、次に案内されたのは貯蔵タンクの上。冷却装置の付いたサーマルタンクで、「本醸」「大吟」「純吟」などのメモが貼ってあり、それぞれの品温は…当然違いますね。そして驚いたことに、デジタル温度計の各液晶付近には「-1.0」等のメモも。聞けば、実際の温度とは誤差があるので、それを示しているとのことでした。うん。頑張りましょうよ、正確さが売り物のデジタル機器。でもそういう小さなところに気をつけているってのは、飲み手・売り手としてはなんだかうれしくなりますね。

おいしくな〜れ。出番を待って「熟成」の時間を刻む

 最後にラベル貼り前の瓶詰めされたお酒が保管されている冷蔵庫と、酒樽の林を回って蔵内部の見学は終了。蒸し釜も見たかったんですが、来期は入れ替えるとのことで、すでに撤去されレンガ造りの土台だけを拝んできました。
 そうそう、大事なことがもう一つ。われらが旅籠酒は、瓶詰めされたまま専用の冷蔵庫にて貯蔵されます。常温で貯蔵していると、特に無濾過のような酒の場合、外気温によって熟成がどんどん進んでしまう。冷蔵庫に入れるということはすなわち、お客様が瓶を開封し、呑むその瞬間に、香りや味わいの熟成具合が丁度よくなるようにという工夫なんですね。手間もかかるし、スペースもとりますよこれは。HATAGO井仙には、そんなに大きな冷蔵庫はないですし、注文があるまでは保管してもらっている訳です。不良在庫とならないように、私達もしかと営業努力をしなきゃいかんですな。その素晴らしさが分かってもらえれば、あっという間に無くなる筈ですが…。

我らが旅籠酒。心新たに、おすすめしていきます。

 さて、こちらの蔵元さん、今年から一部のお酒に南魚沼産の「越淡麗」を使用するということで、蔵元見学を終えた後にその田んぼまで案内していただきました(ちなみに旅籠酒は同じ南魚沼産ですが「五百万石」を使ってます)。「越淡麗」とは、山田錦と五百万石を掛け合わせた新潟県産の酒米で、多くの蔵元が大吟醸に使用しています。といってもここ2年くらいに出てきた酒米なので、県内のお酒にはこれからもっと使われるでしょうし、また超有名銘柄になるような話題のお酒が出てくるかも知れませんね。とにもかくにも、この注目品種の栽培をお願いしているという契約農家さんの田んぼへ。そこは蔵元のある塩沢駅周辺を離れ、我らが井仙への帰り道にありました…。
…ってココ??塩沢産コシヒカリ一等米の産地じゃあありませんか!!!
「な、なんて贅沢な…」
 ちょうど田植えを終えた頃で、稲株のあいだからのぞく水面には昆虫やら蛙やらおたまじゃくしやらがたくさん。農薬や化学肥料が少ない証拠です。愛情を受け、手間暇かけて作られた酒米に蔵元の熱い想いと技×最新技術。いったいどんなお酒になるだろうかと期待感を募らせずにはいられませんね!!
 「酒屋万流(さかやばんりゅう)」という言葉をご存知でしょうか?蔵元がそれぞれの考え方で酒造りに取り組むということ。10の蔵があれば10の考えや酒造りの方法がある。つまり青木酒造には青木酒造の酒造りがあり、江戸末期の創業以来、その我流を守り続けているのです。そんなことを改めて感じさせられた今回の酒蔵見学。ご案内いただいた蔵元や頭、女将さんのお話からも、われらが「旅籠酒」が旨い訳がちょっと深く理解できたように思う。改めてみなさんに喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。さあ、もっともっとお客様に飲んでいただくように、今日からまた、心新たにおすすめしていきます!!

社長対談
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